1.有用林木遺伝資源植物のバイテクによる保存と増殖技術の開発(第4報)
予算区分 国補
研究期間 平成8~15年度
担当科名 森林育成科
担当者名 千木 容・三浦 進
I.はじめに
森林は有用遺伝資源の宝庫であり、その保存については林分を保存したり、樹木保存園等を造成保存することが行われている。しかし、これらは維持管理等多大の労力及び費用が必要であり、雪害、風水害等の気象災害により対象林木が消滅し、有用遺伝子の保存が極めて困難になる可能性がある。このため、少ないスペースで有用林木遺伝資源を効率的に保存しその活用を図ることを目的として、バイオテクノロジーを用いた新しい保存と増殖技術を開発する。これまでに、都道府県林業試験研究機関で開発してきた優良木の組織培養技術を核として生かし、有用性が確認された高齢木組織から幼若化した植物体を再生する。さらに、森林総研において開発されたバイオテクノロジー等の技術および既に実用化されている技術を応用して、地域に役立つ有用林木の保存と量産化技術の開発を行う。
II.研究内容および結果の概要
(1)有用林木遺伝資源植物の組織培養技術の開発
(1)植物組織片の効率的な採取と表面殺菌技術の開発
- 対象とした有用林木ケヤキ、サクラの新芽の殺菌条件は、アンチホルミンの濃度は0.1~0.5%、殺菌時間は20秒~1分間の中に適当な条件があったが、供試材料の種類、状態によって処理時間の調整が必要である。
(2)種間差及び個体間差による培養条件の違いの解明と汎用性のある組織培養技 術の開発
- サクラ、ケヤキはCaCO3を加えた、改変WPM培地(ウッディプラント:樹木用培地を改変した)等で培養を行っているが、サイトカイニン、オーキシンの適する濃度には種間差、個体差が見られる。
- サクラ、ケヤキを供試してダイレクトルーティング(無菌のシュートを寒天培地ではなく養土中で発根させる)を試みたところ、ケヤキで発根する個体が見られた。
- ケヤキおよびサクラの培養に供試した後の培地の無機成分を分析し、養分吸収特性を検討したところ、種および個体による特性の違いが認められた。
- 分光光度計により、培養中に生じる成分について検討したところ、フェノール化合物と考えられる、培地を酸性化する成分が多く認められた。
- CO2濃度800ppmの恒温室内で、苗の効率的な順化手法を検討した。
(2)有用林木遺伝資源植物の保存技術の開発
(1)超低温保存技術の開発
- サクラ、アテを供試して低温(5℃)程度で保存したところ、3~6ヶ月程度経過したのち、再び成長するものが見られた。
- アテについてはガラス化法(植物体の内の水分をガラス化液と置き換え凍結保存する)による保存技術を確立のため、前培養の条件、ガラス化液組成、浸透圧の最適化について、組織観察および生化学的手法により検討した。
III.今後の問題点および検討事項
- ケヤキ、アテ、ヤマザクラ等の植物組織片の採取と表面殺菌に課題があるものについて培養目的に応じた殺菌方法を検討する。
- シュート伸長培養に課題がある種および個体について、培養条件の違いを解明し、汎用性および個体特性に応じた技術を開発する。
- シュート発根培養技術に課題がある種および個体について、培養条件を検索する。
- すでにある程度培養技術が確立されたケヤキ、サクラなどの材料を用い培養保存、冷温保存技術を開発する。
- アテのガラス化法による保存技術を確立するため、前培養の条件、ガラス化液の組成、浸透圧の最適化について、組織観察および生化学的手法により検討する。
- 組織培養で増殖した優良クローンを材料にして、さし木、とり木等による経済的なクローン増殖法を検討する。
- 織培養苗および組織培養に由来する苗について幼若化の指標を検討する。
- クローン増殖した、ケヤキ2系統の苗畑、林地における適応性を検討する。