1.有用林木遺伝資源植物のバイテクによる保存と増殖技術の開発(第5報)
予算区分 国補
研究期間 平成8~15年度
担当科名 森林育成科
担当者名 千木 容・三浦 進
I.はじめに
森林は有用遺伝資源の宝庫であり、その効率的な活用と保存を図るため、バイオテクノロジーを用いた新しい増殖と保存技術を開発する。これまでに、都道府県林業試験研究機関で開発してきた優良木の組織培養技術を核として生かし、有用性が確認された高齢木組織から幼若化した植物体を再生する。さらに、森林総研で開発されたバイオテクノロジー等の技術および既に実用化されている技術を応用して、地域に役立つ有用林木の保存と量産化技術を開発する。
II.研究内容および結果の概要
(1)有用林木遺伝資源植物の組織培養技術の開発
a.植物組織片の効率的な採取と表面殺菌技術の開発
- ケヤキ、サクラ亜属を供試し、表面殺菌条件を検討したところ、11年度以前の結果もふまえて、現在のところ殺菌条件は、新芽は0.2%アンチホルミンで30秒間処理、冬芽は1.0%アンチホルミンで5分間処理が、ほぼ適当と考えられるが、多少の条件調整も必要と考えられる。
b.種間差及び個体間差による培養条件の違いの解明と汎用性のある組織培養技 術の開発
- シュート伸長培地およびシュート発根培地について効率化を検討した。ケヤキ成木からは、9系統で再生個体を得、5系統で永続的増殖が可能となった。同様にサクラ亜属での培養の難易は、培養がし易い順にマメザクラ、シナミザクラ>ヤマザクラ、オオシマザクラ、カスミザクラ、オオヤマザクラ>エドヒガンであった。また、しだれ性のサクラは、同じ種の立ち性に比べ培養し難い傾向にあった。
- サクラ、ケヤキはCaCO3を加えた、改変WPM培地等で培養を行っているが、サイトカイニンの適する濃度には種間差、個体差が見られる。
- ケヤキおよびサクラの培養に供試した後の培地の無機成分を分析し、養分吸収特性を検討したところ、種および個体による特性の違いが認められた。
- 分光光度計により、ケヤキの培養中に生じる成分について検討したところ、260nm付近に吸光域が複数見られ、フェノール系化合物の生成が示唆された。
(2)有用林木遺伝資源植物の保存技術の開発
a.培養保存、冷温保存技術の開発
- ヤマザクラで低温(5℃)保存を試みたところ、供試個体の60%ぐらいが生存するが、褐変枯死する個体も少なくない。
- アテについても低温保存は可能であるが、ガラス化法による低温保存については、凍結の際生じる細胞間の隙間やガス化液の細胞に対する毒性等の問題で保存できるには至っていない。
(3)組織培養苗増殖技術の開発
a. バイオ苗の効率的な順化手法の開発
- ケヤキでダイレクトルーティングによる発根処理を、個体数を増やして行ったところ安定した発根が得られた。
b.低コスト培養苗生産でのバイテクの実用化試験
- CO2濃度800ppmの恒温室内で、ケヤキ組織培養苗からの密閉ざし法を検討したところ、高い発根率を示し、成長が速いものが新たに2系統認められた。
- 前年度CO2濃度800ppmの恒温室内でさし木による発根苗が得られたケヤキクローンについて、CO2の供給を停止した恒温室内で、さし木を行ったところ濃度が70ppmまで低下し発根率が低下した。一方、オープンのガラス室内では、発根率はあまり低下せず、密閉ざしになってはいるが自然にCO2の供給が行われていることが示唆された。
- ケヤキ5クローンについてRAPD法によるクローン識別を試みたところ、16個のマーカーが得られたが、今回のRAPDマーカーでは分離できない個体もあった。
III.今後の問題点および検討事項
- ケヤキ、アテ、ヤマザクラ等の植物組織片の採取と表面殺菌に課題があるものについて培養目的に応じた殺菌方法を検討する。
- シュート増殖の効率化と発根率の向上など、個体差を克服するため汎用性を高める技術を開発する。
- 冷温保存が難しい、アテ、ケヤキ、サクラの保存方法を検討する。
- 植物体の再生時期によって環境順化の難しい場合があるので、通年順化可能な手法を検討する。
- 組織培養で増殖した優良クローンを材料にして経済的、効率的なクローン増殖法を検討する。
- 組織培養苗および組織培養に由来する苗について幼若化の指標を検討する。
- ケヤキのRAPD法による個体識別方法を検討する。
- ケヤキクローン系統の苗畑および林地における適応性を検討する。
- ケヤキクローン苗生産技術の普及方法を検討する。