ホーム > 県政情報・統計 > 知事のページ > 知事のホームページ - 対談・寄稿文 - > 対談・寄稿文 - 石川の里山里海~生物多様性の世界のリーディングモデルに~
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「石川が持つ『地域力』の豊かさに感動した」。
本年八月に石川県能登の七尾市で開催された、アジア・太平洋地域の環境大臣など有識者が集まる国際会議「アジア太平洋環境開発フォーラム(APFED)」の席上、議長を務める川口元環境大臣が、能登の里山里海や伝統的なキリコ祭りを体感して、述べた言葉である。
石川県は豊かな自然の宝庫である。鳥や昆虫がえさをついばむ田んぼや畑、神秘的な林や森、渡り鳥が羽を休める湿地や湖沼、日本三名山の一つ霊峰白山、イルカが泳ぎ廻る透き通った日本海、これらは、石川の「地域力」の大きな源泉でもある、と私は思っている。
こうした恵まれた自然環境の中、土、草、虫、鳥、魚たちと戯れ、歓喜するこどもたちの姿を見るたびに、石川県、日本全国、そして、この地球に住むこどもたちのために、いのち響く豊かな自然を、未来のこどもたちのために守っていかなければならない、そんな思いをずっと抱いてきた。
川口元大臣が感動された「里山」や「里海」は人が適度に手を入れることにより豊かな自然が守られ、あるいは、豊かな海の恵みを利用しながら、生活や生産活動が行われてきた。そうした「身近な自然」を地域一体となって守り、そして貴重な地域資源として活用していく。そのことが、人と自然の共生、ひいては、生物多様性の保全につながるとの思いで、石川県では、自然保護の観点のみならず、農林漁業の振興、景観の保全、地域振興など幅広い視点から、部局横断のプロジェクトチームを立ち上げ、具体の取組みをスタートさせた。
例えば、「生物多様性戦略ビジョン」の策定に取り組んでいるほか、森林環境税による森林整備、生物多様性に配慮した農業などを推進している。さらに、今年度は、里山を活用したビジネスの創出、県内七つのエリアを、「先駆的里山保全地区」に選び、地域独自の里山保全の取組みに対して支援し、地域住民が主体となった取組みを育むこととしている。
石川県には、幸いなことに、里山里海の保全に熱心な地域の皆さん、十年以上も前から里山保全の研究を続けている金沢大学、そして、昨年四月に開設された国連大学高等研究所のオペレーティングユニットといった、研究機関が存在している。地域で盛り上がりを見せ始めているこうした動きを更に大きなものとし、国際生物多様性年であり、生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)が開催される二〇一〇年を当面の目標としつつ、中長期的な展望を持って、石川の里山里海の保全に向けた取組みを進めていきたいと思っている。
私は、昨年五月、国連大学高等研究所の依頼を受けて、ドイツのボンで行われた生物多様性条約第九回締約国会議(COP9)の関連会議において、石川県の里山里海の保全の取組みを紹介する機会を得たが、世界各国の関係者の皆さんの予想を上回る日本の里山に対する関心の高さに正直言って驚いた。
会議では、フィリピン在住の生物多様性ASEANセンターの所長からは、「日本の里山保全の取組みを東南アジアの地域にも広げていきたい」といった発言もあり、その後、石川県の能登を訪問いただいた。
また、生物多様性条約の事務局長であるジョグラフ氏にも、昨年と今年の二度にもわたり、能登の里山や里海などをご覧いただいた。同氏からは、「能登の里山や里海は世界に先駆けたベストプラクティス(最善の方法)として国際貢献できる」とエールをもらった。これは、能登のみならず、「日本」の里山・里海のポテンシャルの高さに対する、メッセージであると受け止めている。
そして、豊かな自然を受け継ぎ、生き物からの恵みを享受していくためには、地域レベルの取組みと同時に県境や国境を越えた連携も必要であると思っている。佐渡島で放鳥されたトキは、海を越え、新潟、長野、宮城、福島、山形、富山など、棲みやすい生息場所を探して日々飛び回っている。生き物にとっては、県境も国境もないのである。
愛知県・名古屋市のご尽力により、COP10に併せ、生物多様性をテーマに「国際自治体会議」も開催されることが決定している。こうした機会を生かしながら、自治体の枠を越えて同じ志を持つもの同士が集まり、手を携えていくことができれば、それぞれの地域の地道な取組みが日本全国に拡がり、我が国が、地球規模の環境問題である生物多様性の保全に大いに貢献できると、私は確信している。
約四ヵ月の国際宇宙ステーションでの任務を終えた宇宙飛行士、若田光一さんが、地球帰還の第一印象として述べられた言葉が印象に残っている。「ハッチが開いた後、『草の香り』がシャトルに流れ込み、地球に優しく迎えられた」。
美しく、優しい地球を子々孫々に引き継いでいくことは、この地球に住む私たちの未来の世代に対する責任ではないだろうか。そうした責任を果たすためにも、石川の里山里海が、生物多様性の世界のリーディングモデルとしての役割を果たしたいとの思いを強くしている。
(『都道府県展望』 2009年10月号)
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