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かつて地方分権改革推進会議委員を務め、苦い思いも味わったことがある石川県の谷本正憲知事。「これからは実効性が求められる」とハローワークの地方移管を突破口に住民の実感が伴う地方分権社会の実現を力説する。
地方分権は、理念を語る段階から実行の段階。今後はその実効性が問われる。
当時は補助金も交付税も削る、国の財政が悪いから地方には税源を移譲しない、自治体は勝手に自立しろという論調が多く、推進会議がとりまとめる意見書案の賛否が二分した。それだけ賛否が割れるとふつうの審議会ならば両論併記にするはずなのに強引に多数決で決められた。その後、生活保護をめぐる国との協議にも参加したが、生活保護を地方の自治事務にして一般財源化するといったとんでもない話が出て、最後は厚生労働大臣と大論争した。そのころからみれば、いまはかたちの上では前進しているのではないか。
確かに民主党政権下で鳩山政権から菅政権になっても「地域主権が一丁目一番地」と言い、地方分権、地域主権を進め地方を元気にしていくことが日本全体を元気にしていくという共通理解は醸成されてきた。
だからこそ地域主権関連3法案を国会に提案したと思う。特に国と地方の協議の場を法制化し、いろいろな制度を立案する際に地方と相談することになれば子ども手当の支給をめぐる国と地方の混乱のようなことは起きなくなるはずだ。その意味で国と地方の協議の場がどのように活用されていくのかが問われる。地方分権は、理念を語る段階から実行の段階に入ってきた。今後はその実効性が問われることになる。
ただ、最近の動きをみていると、政権の思いはわかるが、具体的にどのように実行していくのか少し心許ない。霞が関の官僚や省庁はやはり権限を手放したくない。そういった官僚と対峙しながら、仕掛けてある“地雷”を踏まないように、しっかり我々も一歩一歩前進していかなければいけない。
小泉内閣当時の三位一体改革のような失敗を絶対に犯してはならない。意気込みだけで突っ走ると、再び落とし穴にはまる可能性があるのでよくよく注意しなければいけない。
私は全国知事会の「国の出先機関原則廃止プロジェクトチーム」に入っているが、出先機関の廃止にしろ、義務付け・枠付けの見直しにしろ、これからは一つひとつ具体的な制度設計をきちんとしていかなければならない。そのためには、国と地方が同じ土俵に乗ることが重要であり、そうした意味では、国と地方の協議の場が一つのカギになる。
地方側が問題意識を共有できるのかどうかも重要だ。例えば国の出先機関では、7月の全国知事会議で、少なくともハローワークについては47都道府県知事が都道府県に移管すべきだということで意見が一致した。ハローワークは全都道府県が受け皿として機能できると表明したわけで、それをまず実現させることが重要だ。ハローワークの事務を都道府県が実際にこなしきると、地方に移管してもしっかりできるという証明になる。その上で次の出先機関の移管に広げていけばよい。最初から、出先機関すべてを一挙に地方に移管するのは膨大なエネルギーが必要であり、知事会自体の足並みもそろわない気がする。
ハローワークの移管すらできないで地方整備局や地方農政局の議論をしてもなかなか難しい。特に北陸地域は地方整備局と地方農政局の管轄地域が分かれている。幸いなことに労働局は各県ごとに出先機関があるわけだから、職業紹介業務を県に移譲するというのは極めてやりやすいのではないか。
そういう反対の主張を押さえ込み、地域主権を名実共に内容のあるものにしていくためには、まさに総理以下のリーダーシップが求められる。それができなければ、国と地方の協議の場が法制化されても、単なるかたちだけに終わってしまいかねない。
我々は税源、財源を地方に移譲するというのが基本的な考え方だが、できるだけ地方の裁量の度合いを増やそうという純粋な思いで一括交付金を考えているならば過渡的な措置として受け入れるのは可能だ。ところが、一括交付金化することによって国の財源を節約する、交付金になれば切りやすくなるといった地方財源を減らすための手段として一括交付金化していこうという意図が見え隠れしているとなれば本末転倒だ。そうなると一括交付金は一歩前進というより、むしろ後退になる。
地方分権に関しては、華々しく花火を上げて、主張をぶつけ合う段階から、分権は進めなければいけないという方向性については各政党でもだいたい一致をみたという理解が前提としてあると思う。
個々の事業ごとに議論していくことは、どうしても地味な仕事になりがちであり、出先機関を廃止して地方へ移菅するにしても、その仕事の一つひとつを吟味していかなければいけない。だが、ときとしてその方向を捻じ曲げようとする動きが出てくる可能性も否定できない。
ハローワークも地方へ移管する方向で議論が進めば何ら問題はないが、厚労省は11月初旬に、ハローワークは国の出先機関として残し、自治体の長に指示権を与えるという変則案をまとめた。それで仕事を求める人たちのニーズに本当に応えられるのかは、はなはだ疑問だ。地方へ移管すれば単なる職業紹介業務にとどまらず、ワンストップで生活保護などの相談にも応じることができる。それができるのはまさに自治体だからだ。
国の出先機関は基本的には国の指示通りに動く。それが出先機関の宿命だ。ところが県の仕事になれば、本当に県民ニーズにあっているのかどうかを絶えずフィードバックしながら事務を行うことになる。その中で改善が必要ならば国に提案するが、出先機関である労働局の局長が中央に意見具申することは現実的には難しいのではないか。それぞれの地域において様々なニーズにあった職業紹介サービスが本当にできているのかどうかも疑問だ。地方に任せてもらえれば、私ならばハローワークにいろいろな機能を持たせ、来られる方の多様なニーズに応えるような仕組みをつくる。それができるのは知事のもとに全部の組織があるからだ。
生活保護などの福祉分野の行政は自治体の長がやっている。それに職業紹介業務をあわせれば、県民の皆さんに内容のある手厚いサービスが提供できる。このことは誰が考えてもわかる話だと思う。
全国知事会ではこれまでさまざまな提案をしてきた。知事会の中では議論が進んでいる錯覚に陥るが、外からみたら実は何も分権は進んでいない。
いまは不況で、仕事がなくて困っている方が多い。ハローワークの職業紹介などは県民生活に大きなかかわりがある事務であり、それを地方に移譲し知事のもとに統括されると、ワンストップでいろいろなサービスが提供できる。その成果が見えれば、県民の分権への理解はぐんと深まるはずだ。
広域行政で行う事務をしっかり議論しておかなければいけない。観光は石川県だけではなく、北陸3県、あるいは岐阜県とも連携して広域的な受け皿をつくっていく必要がある。お客様に県境意識は全くない。隣り合う県同士でしっかり連携しあって広域的な観光の受け皿づくりをしていくことは非常に大事なこと。広域連合という仕組みをつくる前に、お互いにしっかり実質的な連携を取り合いながら全国、世界へアピールしていくやり方はできる。その延長線上で、例えば広域連合という話なら、あってもいい。そうではなく、先に広域連合ありきで、そこで何をやるかを何も決めずに受け皿さえつくればいい、ということではないと思う。
道州制も区割りの議論ばかりが進み、道州の財源や税源、どんな仕事を担うのかといった具体の制度設計は誰も描いていない。道州制ありきで、要するに複数の県を一緒にすれば効率的な運営ができるだろうというふわっとしたレベルの話で止まっている。
法人関係税は国税にして、地方は地域ごとの偏在性の少ない消費税を基本にした税制システムにしていかなければいけない。いま法人関係税の一部が国税になっているが、将来消費税を充実して、地方消費税を基盤とした税財政システムを構築し、国は法人関係税を中心とした税制基盤を構築するという大きな方向性を目指すべきだと思う。
それでも地域によって税収の格差はある。そこには何らかの財政調整制度が必要であり、日本では交付税制度だ。財政調整制度はなくならないし、なくしてはいけない。
しかし、いまだ検討していないのではないか。現場の自治体は財源があってこそ、いろいろな行政サービスが提供できる。税財政制度は荒っぽいやり方で、勢いだけで議論されると怖い。それは、小泉内閣の三位一体改革で我々は骨身にしみた。あれで交付税が大幅に削減され、地方はみんな疲弊した。石川県では交付税が一挙に230億円近く減らされ、その後6年以上経ったがいまだ財政調整基金を崩さないと収支がとれない。石川県では知事部局の職員を560人削り、職員定数は40年前の水準まで落とした。おそらくどこの県も定員削減で血のにじむような努力をしているはずだ。
知事会はじめ地方6団体が小異を捨てて大同団結していくことだ。国と地方の協議の場も有効に活用して地方分権をどう内容のあるものにしていくのかに尽きる。そのためにも、制度設計を一つひとつ着実に進めていかなければいけない。
(『月刊ガバナンス』2010年12月号)
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