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回答:渥美由喜氏 (株)東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長
ワークライフバランスを実現するためには、社内の雰囲気や支援制度の有無など、環境によるところが大きいのはたしかです。しかし、個人でも取り組めることはあります。
例えば、自分の業務を今一度見直すことによって無駄を省き、長時間労働を減らすことができます。それによってできた時間を子育てや地域活動、趣味、自己啓発などにあて、様々な価値観に触れることで今までにないアイデアが浮かぶなど、仕事にも好影響を与えます。
さらに、メリハリのある充実した生活を送り、イキイキしているあなたの姿を見て、周囲の人々の意識も変わってくるかもしれません。ワークライフバランスの実現には働く人々の『意識』を変えていくことが重要です。社内全体の意識が変われば、残業を減らそうとするといったように、『行動』が変わっていくことでしょう。まずは自分のできることからチャレンジしてみることが大切です。
<地元企業で働く労働者からのアドバイス>
まずは自分でできることからやってみてはどうでしょうか。私の場合は保育園の送迎があるため、どうしても時間制約がかかるので、仕事の優先順位を決めて取り組んだり、休憩時間を有効に活用するなど、時間をかなり意識して取り組んでいます。
自分なりに一生懸命ワークライフバランスに取り組んでいると、それを理解してくれる上司・同僚が徐々に増え、以前より働きやすくなった感じがします。(サービス業)
私がいろいろな社員に話を聞いてきた経験から言うと、真面目で責任感が強い方ほど、会社での仕事についていけるか心配と感じておられるようです。案ずるよりは生むが易しです。
例えば、自分だけでなくパートナーが保育園の送迎をできる日がないか、あるいは他の親族のサポートを期待できないかなど、具体的な可能性を検討してみましょう。
また、私自身も育児休業を2回取得しましたが、職場復帰後に感じたのは「24時間乳幼児と向き合い、目が離せない生活よりは、仕事をしている時間がある方が精神的に楽になる面もある」ということです。家庭環境などによっては、職場復帰後すぐにフルタイムで勤務するのは難しいという方もいるでしょう。そういう場合は、育児・介護休業法に定められた短時間勤務から始めることが可能です。会社は必ず1日の所定労働時間を5時間45分~6時間とする制度を作らなければならないとされていますし、利用できる期間は子どもが3歳になるまでの間で従業員の申出期間となります。まずは会社に制度の詳細を問い合わせてはどうでしょうか。
お子さんが乳幼児期には突発的な病気はつきものです。夫婦どちらが面倒をみるのか、あるいは親族に協力をお願いするか、といったことをあらかじめシミュレーションしておくと良いでしょう。また、子どもの体調が悪くなりそうだと予想がつく場合には、率直に上司や同僚に相談してみましょう。場合によっては、仕事を前倒しして行うことで、職場へのしわ寄せをできる限りなくすことができるかもしれません。
他にも、急に保育園から連絡が入り、お子さんを迎えに行かなければならないこともあるので、日頃から仕事をカバーしてもらいやすいように、業務マニュアルを作成するなど、自分の仕事を見える化したり、職場の同僚と情報を共有しておくことも大切でしょう。
<地元企業で働く労働者からのアドバイス>
育児休業から職場復帰するときは、誰でも多かれ少なかれ不安があると思います。個人的な考え方ですが、「仕事に出てリフレッシュする」という発想の転換はどうでしょうか。普段は家で一人であれこれ考えていると思いますが、仕事場には相談できる人もいるでしょう。そういった人がいれば気分も変わると思いますよ。
また、上司や同僚とのコミュニケーションにも心を配るといいと思います。仕事と子育てを両立するときは、短時間勤務制度の利用などで少なからず周りの社員に影響が及びます。そんな中でも、コミュニケーションがきちんと取れていれば、周りの人達の理解は得やすいと思います。(製造業)
ワークライフバランスに関する支援制度の内容及び利用方法は会社によって異なります。
例えば、育児休業や子の看護休暇制度、短時間勤務制度、再雇用制度などがありますが、いずれも必要書類を備えているケースが多いので、まずは総務・人事部門に相談してみることをお勧めします。また、社内で制度を利用したことのある人を探して、実際に聞いてみるのもお勧めです。
「制度を利用した場合、出世などで不利な扱いを受けないか不安」ということですが、育児休業等の制度を利用したいと申し出たり、取得したことを理由として、会社が社員に対して不利益な取扱いをすることは法律で禁じられています。不利益な取扱いの典型例は以下のとおりです。
ワークライフバランスとは、決して効率化だけを追求するものではありませんし、会社や職場や上司が面倒をみてくれるものでもありません。一人ひとりがワークにもライフにも真摯に向き合うポジティブな姿勢こそが必要なのです。原点は、皆に公平に与えられている「時間」を上手に使って自分の人生を設計していこうという、個人の自覚です。
効率化には向いていることと向いていないことがあります。例えば、私は家事は徹底的に効率化・合理化を追求しますが、老父の介護や難病の息子の看護もしており、そうした場面では相手のペースに合わせます。つまり、自らの権限が及ぶ部分は徹底的に効率的な時間の使い方を追求し、相手に合わせるべきところは相手に合わせるべきです。何事もメリハリが大切なのではないでしょうか。
また、ワークライフバランスは指示されてやるものではなく、自主的に取り組むべきことです。社員のやる気はとても大切なもので、意欲のある社員ほどやる気をなくしてしまうとしたら、それは間違ったやり方をしていると思います。ありがちなのは、人事総務部門が業務改善策を決めて、現場に伝達するというやり方ですが、これは失敗しやすいのです。どんなに良い取組みでも、現場にやらされ感が漂ってしまうと長続きしません。職場単位で自ら考え、実行させることが大切なのです。
業務の見直しには、5つの切り口があります。「やめる、簡単にする、真似をする、してもらう、一緒にする」の頭文字をとって私は、『やかましい』の手法と名付けています。業務を職場全員でやかましく見直していくことが大切です。
私がお手伝いをしたA社では、B部門をモデル部署として「新しいことを考えるときには、それまでやってきたことを2割やめる」ルールを導入しました。当初、現場から大きな反発を受けました。「やめたら仕事に支障が出るはずだ」。私は「支障が出たら元に戻しますから、とりあえずやめてください」と押し切って、1年後。実際に戻した業務はわずか5%。95%はやめても何の支障もなかったのです。残業は3割程度、減ったのみならず、ズルズルと惰性でやってきたことをやめてみたら、本当にやりたいことにエネルギーが投入できるようになり、B部門の業績はさらに伸びました。「時間が減ったら、むしろ仕事の質は上がった」というB部門の発表は、A社全体に横展開していくうえで大きな推進力となったのです。
<地元企業で働く労働者からのアドバイス>
例えば、「今日中に」絶対にしなければならないこと、「明日まで」でよいもの、「今週中」でよいもの、など仕事に優先順位を付けることが挙げられます。
また、自分で絶対にしなければならないこと以外は、後輩を育てる意識で思い切って他の人に任せてみるのもありかもしれません。人に任せるスキルが身に付くことで、ワークライフバランスに取り組みやすくなるだけでなく、マネジメント能力も身に付くと思います。ただし、仕事したくないから他の人に振ってると関係が悪くなるので要注意ですよ。(サービス業)
「ワークライフバランスは自分には関係がない」と傍観者の立場に立つ人は少なくありません。しかし、どんな人でもリスクから無縁というわけにはいきません。インフルエンザに罹患したり、骨折したりと、突発的に休むリスクは誰にでもあり、「自分にもいつか起こるかも」と思える「お互い様」意識の醸成が大事です。
以前、私の部下のワーキングマザーAさんが、先輩女性からも後輩女性からも厳しい視線にさらされ、私は管理職として板挟みとなったことがあります。総じて、ベテラン女性社員は子育て中の後輩女性に手厳しい傾向にあります。「私たちが子育てしていた頃に比べ、今は格段に制度も整い、職場の理解も進んでいる。なのに、最近の人は甘え過ぎ」という意識があります。一方、独身女性も、子育て中の女性に対して、「あの人のために私が割を食っている。仕事をいい加減にしかできないなら辞めればいいのに」と批判的だったりします。
Aさんは限られた時間で頑張っていましたが、彼女が早く帰る分、フォローをする周囲の女性たちから冷ややかな視線を浴び、「精神的につらい」と相談してきました。そんな折、先輩女性のBさんがノロウイルスに感染。後輩女性Cさんも骨折したのです。2人の突発的な休みで職場が混乱する中、私はAさんを呼んで「今が正念場だ」と諭しました。彼女の頑張りもあって、何とかその時期を乗り切り、BさんとCさんの職場復帰後、Aさんの貢献を彼女たちに伝えると、2人のAさんに対する態度は見違えるように好意的になったのです。
サポートする人、される人の固定化をなるべく避け、お互いに「お陰様で助かった」という思いを持てるよう、管理職は配慮すべき、ということを学んだ出来事でした。
<地元企業で働く労働者からのアドバイス>
うちの会社もいろいろな業種があり、定時上がりの人もいれば、深夜まで仕事をしている人もいます。当然、意見の食い違いも出るし、ちょっとした衝突も起こります。
そういった時は、社員間で意識的にコミュニケーションを取り、他の社員の仕事の内容を知るようにしています。仕事の内容を理解すれば、他の社員が忙しい中で自分の仕事の一部を引き受けてくれてることも知りますし、逆の場合は助けることもできます。
ワークライフバランスを実現するには、「謙虚さ」や「お互い様」の気持ちを持つことが大切だと思っています。(製造業)
ワークライフバランスの取組みで有名な中小企業の一つに『カミテ(秋田県)』があります。同社では、従業員は男女ほぼ同数であり、全員が複数の工程を担当できる『多能職』なので、職種を超え助け合っています。これにより、職域によって、ある程度の欠員が生じても生産活動に支障は生じません。その結果、ワークライフバランスの制度利用にアンバランスな状況は生じていないどころか、企業業績の向上にも結び付けています。
カミテは敷地内に託児所を設け、社員を多能工化して休暇を取得しやすい環境をつくることで仕事と家庭の両立を支援しています。その結果、社員の士気が上がり、業績にも好影響をもたらしました。その制度づくりのいきさつについて、「ひと言で言えば“お互い様”の精神ですよ」と上手康広社長は話しています。「社員の子供が幼稚園や保育所で熱を出したといえば、基本的に親が仕事を休んで面倒を見ないわけにはいきません。ならば、他の社員が仕事を代われる体制をあらかじめ作っておいて気兼ねなく休んでもらった方が、結果的には安心して仕事に集中でき、かえって生産効率も上がるだろうと考えたのです」(上手社長)
ワークライフバランス支援は経営コストの圧迫につながりかねないと考える経営者が多いのですが、カミテでは従業員の多能工化を推進し、増員せずに欠員を補える体制を整えることで解決しました。
カミテでは経営理念の1つとして「社員と会社の双方の発展、幸福を追求し、明るく楽しい職場づくりを目指す」を掲げています。同社の充実した福利厚生制度は、その理念を具体的な形に表したものです。「手間ひまかけて育てた社員には長く会社に勤めてもらいたいし、生活と仕事の両立もしてもらいたいと思っています」と上手社長は言う。カミテは福利厚生制度の充実が事業の伸展に結びついた好例です。
<地元企業で働く労働者からのアドバイス>
ワークライフバランスに関する制度の利用について、総務や人事などの担当部署にどんどん質問してみてはどうでしょうか。自分一人だけでなく、同じような環境の同僚がいれば、その人も一緒に動いてみるといいと思います。そうした声が社内での雰囲気を徐々に変えていくことに繋がると思います。
また、同じ職種で制度を利用したことがある社員がいないか探してみるのもいいと思います。(建設業)
このようにおっしゃる現場は少なくありません。例えば、病院や介護施設など、対人サービスに従事していて、真面目で責任感が強い現場の責任者は「何よりも患者や顧客を優先すべきであり、業務の効率化は馴染まない」とおっしゃいます。そういう方々は大抵、業務の見直しをしたり、効率化を図ることで、業務の質が下がるのではないかという不安を感じているようです。
しかし、人口減少社会では、放っておいたら一人あたりの業務量はますます増えるばかりです。むしろ業務の質を下げないために、あらゆる業種で業務の見直しや効率化は不可欠です。
最近では、例えば、看護業界では全国的な業界団体が率先して、ワークライフバランスに取組んでおり、成果を上げる医療機関が増えています。看護師の方々が患者に直接ふれあう時間の割合は平均で35%だそうですが、書類の作成・整理や会議・打ち合わせといったような間接業務の見直しをしたり、効率化を図ることで、患者に直接ふれあう時間の割合を増やすことが期待できます。
また、多くの現場で「残業は自分のせいではない。他律的な要因だから減らせない」とおっしゃいます。残念ですが、人のせいにしている限りは絶対ワークライフバランスできません。人の行動は変えられないけれど、自分の行動は変えられる、職場は変えられる、あるいは他の人についても、自分の受けとめ方は変えられる、こういう風に考えて欲しいですね。
<地元企業で働く労働者からのアドバイス>
これは個人ではなかなか取組みにくい問題ですよね。うちでは、社員の健康面での問題が生じることを考慮し、総務が中心となって会社全体の問題として取り組んでいます。クライアントからのオーダーは重要ですが、18時以降は代表電話を切ることにしていますし、クライアントにも会社のスタンスを地道にPRすることで理解を促しています。(建設コンサルタント)
我が国は著しい少子高齢社会、人口減少社会に突入しているため、ワークライフバランスに取り組む必要があるのです。人口減少社会は総力戦です。24時間365日働ける人だけではなく、育児や介護など制約がありながらも働く人たちが活躍できる職場環境を作らないと、24時間365日働ける人たちも大変になります。
また、大半の職場では、業務量が多く、増えています。一方で、人員はどんどん減らされ、予算もカットとなり、その中でワークライフバランスなんてあり得ないという声があります。人口減少社会では、労働力人口がどんどん減っていくので、一人あたりの業務量が増えるのは当然です。たえず業務効率を高めていく工夫をしないと社員の負担はこれからどんどん増えていくでしょう。
業務量が倍になったら、倍の時間をかけて乗り切るという方法は持続可能性が低く、リスクとコストが伴います。とにかく作業時間を減らしていこう、作業項目を減らしていこう、こういった姿勢が今後はとても大切になると思います。
企業が行うワークライフバランスの取組みとしては、大きく分けて下記のように分類することができます。
アンケートやインタビューなどにより社内ニーズを把握し、自社に適したワークライフバランス導入プランを作成してみましょう。
ワークライフバランスの取組みは、制度を一度導入すれば完了というわけではありません。何度もPDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクルを繰り返しながら、徐々に浸透・定着させていく必要があります。
厚生労働省では、一定の要件を満たす場合「両立支援等助成金」を支給しています。具体的には、従業員の仕事と家庭生活の両立を支援するための制度を導入し、利用を促進した事業主に対して助成金を支給するもので、いくつかのコースがあります。各助成金の詳細や申請方法については、石川労働局雇用均等室(TEL:076-265-4429)までお問い合わせ下さい。
また、石川県では、ワークライフバランス実現の拠り所となる一般事業主行動計画を策定し、石川労働局に届け出た企業に対して、県が発注する建設工事や物品の製造の請負等の入札参加資格における主観点数又は審査附与数値に加算を行っています。
その他にも、取り組み方のマニュアルや他社の事例を紹介するなど、企業の自主的な取組みを積極的に支援しています。支援内容については、石川県健康福祉部少子化対策監室(TEL:076-225-1494)までお問い合わせ下さい。
経営戦略として行う攻めのワークライフバランスと、リスク回避にあたる守りのワークライフバランスがあります。
グローバル時代において、他社との差別化を図り、企業競争力を高めるためには、多様な人材が持つ能力や多様な視点を積極的・戦略的に活かすことでイノベーションが生まれやすい土壌=職場風土となります。これが攻めのワークライフバランスです。
また、リスク回避、コンプライアンスの観点からもワークライフバランスは非常に重要です。私が保有する企業データを調べると、不祥事を起こした企業は同業他社と比べて長時間労働、女性の管理職割合が低いという特徴があります。長時間労働の職場では、どうしても業界の論理、会社の論理だけですべてのことを判断しやすくなり、いつしか一般的な倫理基準から逸脱してしまうケースがあります。
ワークライフバランスに取り組むと、ワークを客観的に見つめるライフ(生活者、消費者の視点)でチェック機能が働くケースがあります。不祥事の予防には、「ためらい」を持てるかどうかが大切です。消費者としての健全な感覚や「常識」が抑止力となります。
このように、攻めと守りの両面から説明すると理解が得やすいかもしれませんね。
ワークライフバランス施策を充実させたところ、あれもこれもと支援を主張する『権利主張型社員』が出てくることもあります。そうなると、制度を利用していない社員に権利主張型社員のしわ寄せがいくため、周囲に不協和音を生じさせてしまうケースがあります。
権利主張をするだけの勘違い社員には、権利と義務は表裏一体であり、やるべきことをきちんとやらないといけない、と指導する必要があります。そういうタイプには釘をさすことも必要です。支援ばかりを求めるのではなく、周囲に感謝する姿勢も大切です。
職場風土には管理職の姿勢が大きく影響します。育児など制約を抱えながら働く人が「仕事面での貢献度が下がる」と決めつけるのは間違いで、周囲が適切な支援をすれば本人も頑張って貢献しようとします。時間制約ができると総生産性は下がるかもしれませんが、時間当たりの生産性はむしろ上がる人が多いのです。
しかも、制約は永遠に続くわけではないので、いったん生産性が高まった人がいずれまた長く働ける時が来ます。そこに期待して投資をすればハイリターンとして返ってくる、という考え方が重要です。
あらゆる社員を排除することなく、組織の活性化に繫げるように工夫することが大切です。小さな積み重ねだけが、組織風土の醸成という大事業を仕上げる唯一の道なのです。
業務改善なしに早帰りを奨励するのは、サービス残業を強化する意図と邪推したり、反発する社員はいます。
例えば、多くの職場で住宅ローンを持つ人ほど、時間外労働が多い傾向にあります。すなわち、生活残業したい人たちもいます。以前、私がコンサルした物流会社では、半端じゃない時間外労働をやっていました。疲弊したドライバーが事故でも起こしたら会社は吹っ飛んでしまうと考えた社長は、本気でワークライフバランスに取り組もうとしたのですが、ドライバーたちは「賃金を減らされるのは困る」と反発してしまい、事態は膠着していました。
私は社長に「せっかく良いことをなさろうと思っていても、『賃金カットされる』と社員が疑心暗鬼になったらうまくいきません。キャッチフレーズを作りましょう」と提案して、“これまでのように残業で稼ぐ代わりに、ボーナスで稼ごう”と標語を掲げていただき、業務改善の提案箱を設置しました。
そして、どのような提案でも一つにつき千円もらえるようにしたら、社員はどんどんアイディアを出してきました。毎月選りすぐりの提案には社長賞を授与して、ボーナスに上乗せするようにしてもらいました。その結果、会社としては数百万円を支払いましたが、社員が提案してきた業務改善案を職場に広めた結果、時間外労働は激減し、会社が支払った分の10倍人件費は減りました。社長は「会社が儲かったのだから社員にも還元しよう」と翌年、賃上げなさったこともあり、社員満足度は大きく向上しました。並行して、顧客満足度も上がっています。
こういった工夫も、社全体としてワークライフバランスを推進するためには有効だと思います。
たしかにワークライフバランスに取り組むと、コミュニケーションや会議の段取りが難しくなりますが、だからと言って反対するばかりでは、社会システムの転換に乗り遅れてしまうことになります。
山あり谷ありのライフステージによって変わっていく社員一人一人の状況をいかに的確にマネジメントするかというのはこれからのポイントになっていきます。ワークライフバランスは、コミュニケーションや会議の段取りを含めた業務管理の上手い、下手ですごく大きな差がつきます。これからの業務管理はワークライフマネジメントの視点が大切です。
人は自分自身が体験していないことに思いやりはなかなか持てないものです。頭でわからせるにはロジックとデータも有効ですが、皮膚感覚を身につけさせるには疑似体験を積み重ねていくしかありません。これには、とても時間がかかり、一朝一夕とはいきません。
ワークライフマネジメントとはあの手この手で、従業員への気づきを与え、地道な業務改善を積み重ねていくよう現場をきめ細かく側面支援していかないとなかなか進みません。
地道に取り組む現場では、やがて優秀な人財確保・定着、社員のモチベーションの向上、業務効率の著しい改善といった効果が相乗的に表れて、大きく業績を伸ばすのです。
「中小企業ではワークライフバランスに取り組むのは難しい」としばしば言われます。たしかに育児休業制度などの導入状況を見ると、中小企業は大企業と比べて遅れています。しかし、だからと言って中小企業では困難と結論づけるのは早計です。実は、中小企業だからこそ推進しやすい面もあります。
中小企業でワークライフバランスを推進しやすい要因は5つあります。(1)「能力」を評価し、キャリアロスが少ない、(2)役職の階層がフラット、(3)職住近接の職場環境、(4)職場に子どもを連れてこられる雰囲気、(5)女性活用をめぐる多様性です。
従来の大企業型のワークライフバランスは、育児休業を筆頭に制度を整備していくことに腐心する傾向がありましたが、中小企業での実践は、柔軟さと経営トップが皮膚感覚で把握している従業員ニーズに即して、鶴の一声で組織業務体制をどんどん変革していくダイナミックなものです。
中小企業の方が、社員と経営者の距離が近く、社員一人ひとりにきめ細やかな対応ができる利点があります。先進的な取組みをしている中小企業の多くは、ワークライフバランスに取り組もうとしたわけではなく、何とかこの人(多くは優秀な女性社員)に就労継続して欲しい、そのために会社は何ができるかと考えた結果に過ぎません。
これからは中小企業の特性を活かしたワークライフバランスの取組みを普及していく必要があると思います。
ここ数年、ワークライフバランス策が企業業績にプラスの効果をもたらすという研究が進められています。私の調査研究では、ワークライフバランス先進企業で支援への取組みが本格化した1990年代における売上高の変化を見ると、一般企業では1企業当たりの売上高が2割近く減少しているのに対し、ワークライフバランス先進企業ではむしろ売上高が3割近く増大しています。同様の傾向は、経常利益についても見られました。
このように、ワークライフバランスへの取組みと業績との間には高い相関関係がありますが、両者の関係には2つの因果関係があり得ます。すなわち「ワークライフバランスに取り組んだから、業績が向上した」あるいは「業績が良好だから、ワークライフバランスに取り組んだ」という2つの考え方ができます。
一般企業の経営者は「業績が良好だから、ワークライフバランスに取り組めた」という見方をすることが多いのですが、ワークライフバランス先進企業の経営者等の大半は「ワークライフバランスに取り組んだから、業績が向上した」と認識しています。
現在、「ワークライフバランス支援はコストがかかるからその余裕はない」と考えている経営者は、発想の転換を図るべきです。経営環境が厳しいときこそ、大胆にワークライフバランスに踏み切るべきです。労働力人口が減少しているなかで、いかに優秀な人材を引き留め、惹きつけるかが企業浮沈の鍵となります。
これからの人口減少社会は、あらゆる人をフル活用する総力戦であり、企業のワークライフバランス支援は常識になります。この点に早く気づけるかどうかで、今後の企業業績は大きく明暗を分けるでしょう。
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