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川畠敦仁・北原岳明・近藤崇・岩本華奈・有本紀子
白山麓のニホンジカ生息状況を把握するためライトセンサス調査を行いました。2024年は過去6年間の結果と調査地の状況をもとに,11月中旬から下旬にかけて調査地を4つに絞り,標高40-830m,1ルートにつき6-17 kmで調査を行いました。ニホンジカがこれまでもよく見られた瀬波地区に関しては日を数日設け,出没状況を把握するために複数回の調査を行いました。原沢,五十谷,市ノ瀬の3つのルートでは五十谷のみで1頭のニホンジカを確認しました。ニホンジカの確認が増えてきている瀬波では,2023年より調査日数を4日間に増やし、2024年は12月2,4,9,12日に調査を実施しました。4日間ともに,複数頭が松尾山南斜面の山腹から瀬波川河原にかけて確認ができました。2023年に17頭、2024年に34頭とニホンジカの確認頭数が飛躍的な増加が見られ,2年間のみの比較ではすが、倍増しています。
雌雄の比率については,雄が雌の約2倍確認されています。雄の比率が高いことから,瀬波がニホンジカの生息分布の周辺地域にあたる可能性,近隣地域に雌の比率の高い地域のある可能性などが考えられます。
「白山麓におけるニホンジカのライトセンサスの試み2024」(PDF:1,968KB)
近藤崇・岩本華奈・有本紀子・内藤恭子
ニホンジカは高山帯に侵入,定着した場合に短期間のうちに高山植物を衰退させるおそれがあることから,高山植物への影響が顕在化する前からの侵入状況の把握が重要となります。白山の高標高域では2013年以降数年に一度のニホンジカの目撃情報があります。2023年の調査では,白山北部の高山帯で自動撮影カメラによる調査を行い,計3回ニホンジカが撮影されました。今回,2024年は調査範囲を拡大し,南北約15 kmの範囲に20台のカメラを設置しました。その結果,数は少ないものの,高山帯では2023年に撮影された七倉ノ辻の周辺で再びニホンジカが撮影され,亜高山帯では南北の広い範囲でニホンジカが撮影されました。現段階では高山植物への影響はみられず,新たな生息地を探して移動している分散個体などが一時的に通過している侵入初期段階と考えられますが,ニホンジカの侵入状況を把握するために自動撮影カメラなどによるモニタリングを続けていくことが大切になります。
「自動撮影カメラによる白山の亜高山帯・高山帯へのニホンジカの侵入状況調査2024年」(PDF:2,856KB)
岩本華奈・近藤崇・野上達也・奥名正啓
ツキノワグマ出没予測のため,主要な餌であるブナ雄花の開花状況,及びブナ,ミズナラ,コナラの3樹種について,雄花序落下量と着果度を調査し結実予測を行いました。調査はクマの多い加賀地方を中心に実施しました。その結果,ブナ雄花の開花状況調査では県内全体として大凶作と予測され,雄花序落下量調査と着果度調査ではブナが凶作,コナラが並作,ミズナラが豊作と予測されました。この結果を反映するように、2024年の目撃件数や捕獲数は前年を大きく上回りましたが、2020年の大量出没年と比べると半数程度であり,大量出没と呼ぶほどの規模ではありませんでした。2024年の傾向としては、春から夏のクマの目撃件数が過去と比較して多くなっており、集落の周辺に生息範囲が拡大している可能性が考えられます。2024年のブナ科3樹種の作柄の傾向から,2025年はブナが並作~豊作傾向、ミズナラは豊作傾向が続くと予測されますが、今後はブナ科3樹種の豊凶に伴う秋の大量出没の他、6月~7月のクマの大量出没にも注意する必要があります。
「石川県のブナ科樹木3種の結実予測とツキノワグマの出没状況,2024」(PDF:2,442KB)
岩本華奈・近藤崇
近年、北海道大雪山や群馬・新潟県境の平ヶ岳、富山県立山などでササ類の生育範囲の拡大が確認されています。ササの生育範囲の拡大は、高山植物の多様性を低下させると言われていますが、1977年と比較すると白山の弥陀ヶ原でもササが拡大していることが明らかになっています。
本調査では、白山弥陀ヶ原において、ササの発達度合の異なる3箇所に各3個の調査区を設置し、各2個の調査区のササを刈り取りました。また、ササの稈密度や群落高、下層植生の状況を記録しました。その結果、群落高が大きい場所では、下層植生がほぼ存在していませんでした。
今後は、雪田植生の復元を目指して、ササの発達度合に応じた最適な刈り取り頻度を検討していく予定です。
白山弥陀ヶ原における雪田植生回復のためのチシマザサ管理手法の開発 1.ササ群落高の違いによる植生の違いおよび刈り取りの試行(PDF:24,144KB)
有本紀子・近藤崇・大井徹
季節繁殖をするツキノワグマの交尾期は6月~8月上旬とされていますが、2023年9月14日に白山市で自動撮影カメラにより14分間以上乗駕している交尾行動が確認されました。ツキノワグマにおいて季節外の交尾行動はこれまで報告がなかったので、希少な観察事例ととして、金沢市で交尾期間の2015年7月26日に撮影された事例とともに報告します。
「自動撮影カメラで確認された白山のツキノワグマの9月の交尾行動」(PDF:1,734KB)
内藤恭子・近藤崇
シベリアイタチ(Mustela sibirica)は主に西日本に分布している外来種です。石川県では2015年と2022年に確認されており、2024年5月30日に白山市で回収された個体を調査したところ、尾の長さや顔の模様、頭骨の特徴などからシベリアイタチのオスと確認しました。今回の事例は3例目となります。シベリアイタチは日本の侵略的外来種ワースト100に指定されており、在来のニホンイタチとの競合や雑種化が懸念され、今後の分布拡大に注意が必要です。
「石川県におけるシベリアイタチの3例目の記録」(PDF:849KB)
中田勝之・野村周平
筆者らはこれまで衝突板トラップという定量的昆虫調査器具により石川県内各地でアリヅカムシ類を調べてきました。2024年5~9月,白山国立公園区域内で地上と空中に本トラップを設置し,地表付近と地表よりも高い位置を飛翔する種類相の把握を通じた白山のアリヅカムシ類の多様性解明及び季節消長の把握を目的として調査を行いました。
標高1180m地点での調査の結果,32種を確認し,そのうち地上設置タイプのみで12種,空中設置タイプのみが1種,共通採集種が19種となり,前者だけで全体の約97%を示し,アリヅカムシ類が低い位置を飛翔する傾向がみられました。また 5~7月の調査で全種数が確認されたことから,季節消長も把握できました。なお,新種の可能性の高いフォリヌスチビナガアリヅカムシ属の1種,本州初記録となるイレックスコナガアリヅカムシとプミリオコナガアリヅカムシ,そして西限記録となるチシマキカワアリヅカムシが記録され,白山のアリヅカムシ類の多様性が明らかになり,引き続き調査の必要性が高まったと考えています。(アリヅカムシ類は,森林土壌中に生息する微小甲虫で,盛んに飛翔することが知られています。)
「2024年に白山において2種類の衝突板トラップ(FIT)で採集されたアリヅカムシ(コウチュウ目,ハネカクシ科)」(PDF:1,326KB)
中田勝之・大宮正也・竹内正人
近年,筆者らのより白山周辺におけるハエ目昆虫類の調査が進められています。
2023年には,本地域の更なるハエ目昆虫類の多様性解明を目的として,白山の石川県側での調査の結果,ミズアブ科1種,アブ科2種,ハナアブ科42種,ミバエ科1種,ハナバエ科3種,イエバエ科12種,クロバエ科8種,ヤドリバエ科12種の計7科81種が確認され,これまでの結果から重複種を除き,26科224種のハエ目が記録されることになりました。
なお,長野県の標高2616mの大滝山からは2011〜2023年の調査により45科512種が記録され,筆者らの白山の記録はその約半分であり,少ないといえるでしょう。調査期間は異なりますが,この要因は調査回数の不足であり,白山周辺の更なるハエ目昆虫類の多様性解明のためには,春から秋に頻繁な調査の実施が必要でしょう。その上で,訪花性のハエ目を採集する際には,その花の種名を記録するなど,植物の生態も調べることで,より包括的な本地域のハエ目の理解につながるものと考えられます。
「2023年に白山の石川県側から採集されたハエ目昆虫類の記録」(PDF:923KB)
中田勝之・清水晃・米田洋斗
これまで本地域では,筆者らによりニホンジカの高山植物等への摂食による森林生態系破壊の懸念から,その影響を最も受けやすいと考えられるハチ目昆虫類として,現時点での調査の必要性に鑑み,ハナバチ類,ヒメバチ類,ハバチ類及びセイボウ類について掬い採り調査が実施されてきました。
今回,同様の観点から従来の掬い採りのほか,建物内での見つけ採りや各種トラップを用いた調査の結果,カリバチ類としてギングチバチ科やクモバチ科の7亜科55種を報告しました。内訳としては,ギングチバチ科は4亜科42種,クモバチ科は3亜科13種であり,そのうち両科合わせた10種が県新記録と考えられる種です。
なお,55種のうち10種が新記録である要因として,従来の調査は登山道での掬い採りが主体で,建物内やトラップ調査があまり行われてこなかったことが推察されます。
今後は筆者らの採集で不足している掬い採り調査の頻度を増やすことにより,ニホンジカの脅威に対抗すべく,本地域での調査を重ねていく必要があると考えています。
「2023, 2024年に白山周辺から採集されたギングチバチ科およびクモバチ科」(PDF:1,197KB)
中田勝之・八神徳彦・大宮正也
焼畑とは,自然の再循環利用が特徴の農業で,かつては全国の多くの山村で盛んに行われ,石川県内でも白山麓や小松市小原地区などで実施されてきましたが,近年では行われていません。最近,白山市桑島地区で伝統文化の継承として焼畑が実施され,そこで特異な行動を示すハエ目昆虫の1種のツマグロキンバエが確認されました。
2024年6月,桑島地区の焼畑において播種前作業である火入れ後の熱さの残る地面付近で本種が飛翔し,地面に潜る複数の個体が採集されています。因みにこの行動は,焼畑関係者の間では,よく知られているとのことでした。
なお,石川県内で本種は加賀市内から能登島の平地や山間部に広く分布している普通種であり,今のところ,焼畑における本種の生態的役割は不明です。引き続き,焼畑の昆虫相を調べることで,本種を含む種々の昆虫類の知られざる生態が明らかになるものと思われます。
「2024年に石川県白山市白峰の焼畑で火入れ後の熱い地面に潜るツマグロキンバエの記録」(PDF:765KB)
「白山自然保護調査研究会」令和5年度委託研究成果要約(PDF:550KB)
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