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更新日:2024年5月2日

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「石川県白山自然保護センター研究報告」(第50集)要約

論説

「石川県白山の中宮道,砂防新道及び観光新道における2022年と2023年採集の好蟻性アリヅカムシの記録」

中田勝之・野村周平

これまで白山の好蟻性アリヅカムシ類について,筆者により砂防新道を中心に調査が行われました。今回2022年から2023年,これまで未調査の中宮道と観光新道及び新たに砂防新道で生息標高別に調査を行ったものです。本調査で確認されたアリ類はシワクシケアリ(以下,シワ)のほか4種,その巣内から採集されたアリヅカムシ類は,白山固有種のハクサンツノアリヅカムシ(以下,ハクサン)やヨコヅナトゲアリヅカムシ(以下,ヨコヅナ)のほか5種でした。アリ類とアリヅカムシ類の対応として,シワの巣内からは,ハクサン,ヨコヅナのほか1種,キイロケアリとクロヤマアリの巣内からはヨコヅナほか2種,ヤマクロヤマアリの巣内からヨコヅナのみを確認できました。生息標高の確認として,ハクサンは標高1870mと1890m,ヨコヅナは1360m~2130mの広い範囲で見つかり,ヨコヅナの生息環境の幅広さが明らかになりました。(アリヅカムシ類は,その多くが森林土壌中に生息する微小甲虫で,一部の種はアリの巣内に暮らすことが知られており,その仲間を好蟻性アリヅカムシ類といいます。)

「石川県白山の中宮道,砂防新道及び観光新道における2022年と2023年採集の好蟻性アリヅカムシの記録」(PDF:286KB)

「石川県白山市市ノ瀬で採集されたハチ類の追加記録  2022年と2023年採集のハバチ類,ハナバチ類及びヒメバチ類」

中田勝之・加藤優羽・渡辺恭平

これまで,筆者は2022年の調査として市ノ瀬から17科53種のハチ類を記録しています。今回更に2022年から2023年にかけて市ノ瀬ビジターセンター敷地内で,開館中の任意の時間に採集調査を行い,新たに9科53種のハチ類を明らかにしました。そのうちコハナバチ科やミツバチ科など重複する科を整理した結果,2ヵ年の調査により同地から21科106種のハチ類が記録されました。また,今回得られたハナバチ類の分布特性を理解するため,筆者らによる2023年の白山の調査データと併せた3科32種のハナバチ類をまとめた結果,市ノ瀬(標高830m)から21種,1300~1700m地点に10種,1700~2000m地点に7種,2000~2300m地点に5種,2300~2400m地点に3種が確認され,標高が上がるにつれて種数が減少している傾向が確認できました。標高別に種数が異なる要因として,調査時期や調査頻度の違いがその一つであると考えられ,今後は白山や市ノ瀬のほか,より標高の低い地点でも調査時期・頻度をできるだけ一致させた計画的な調査を行うことや訪花植物等の生態も調査することで,より包括的なハチ相の理解につなげていきたいと考えています。

「石川県白山市市ノ瀬で採集されたハチ類の追加記録  2022年と2023年採集のハバチ類,ハナバチ類及びヒメバチ類」(PDF:226KB)

「2022年と2023年の市ノ瀬ビジターセンター内で採集されたカメムシ目及びコウチュウ目の記録」

中田勝之

2022年初夏,筆者は市ノ瀬ビジターセンター敷地内に多様なカメムシ類や甲虫類が見つかることに気付きました。近年,同地でのハチ類やハエ類の記録がありますが,カメムシ類や甲虫類の記録は少ないことから,2022年から2023年にかけて市ノ瀬ビジターセンター敷地内で,開館中の任意の時間にこれらの昆虫類の採集調査を行ったものです。その結果,10名の研究者の同定により43科150種という予想を超える種数が確認されました。そのうちカメムシ類は11科21種で,11科のうち6科が1種のみ,甲虫類は32科129種で,32科のうち13科が1種のみであり,いずれも幅広い科から少ない種が採集される傾向がみられました。なかでも注目すべき種は,いしかわレッドデータブック2020絶滅危惧Ⅰ類のオニホソコバネカミキリと同絶滅危惧Ⅱ類のヒメオオクワガタであり,近年個体数の減少が著しいとされている両種が市ノ瀬で見つかったことは,この地の自然環境の豊かさが明らかになったものです。

「2022年と2023年の市ノ瀬ビジターセンター内で採集されたカメムシ目及びコウチュウ目の記録」(PDF:271KB)

「白山中宮道におけるゴミムシ類の記録」

平松新一

白山北部登山道の一つである中宮道においてゴミムシ類の種類相や分布状況に他地域と違いがあるかを調べるため,2022年および2023年にピットフォールトラップ法を用いてゴミムシ類の調査を行い,その分布状況について白山の他地域の結果と比較しながら検討を行いました。

本調査によって,26種365個体のゴミムシ類が採集されました。最も多く採集されたのはオンタケヒメヒラタゴミムシで94個体,次いでコイケミズギワゴミムシの74個体,コクロナガオサムシ白山亜種の30個体でした。

本調査で出現した種はすべてこれまで白山地域から報告のある種で,それぞれの種が記録された標高範囲も,これまでの記録と大きく変わりませんでした。白山におけるゴミムシ類は登山道や地域が異なっても大きな違いはなく,むしろ標高や環境によって出現する種が決まっているように推察されました。

「白山中宮道におけるゴミムシ類の記録」(PDF:907KB)

「白山における地表性ゴミムシ類の垂直分布の17年間(1997–2014年)の変化」

平松新一

筆者は1997年に白山において調査を行い,ゴミムシ類の分布標高が種ごとに異なっていることを報告しました。ゴミムシ類の分布傾向がその後変化しているかについて,17年後の2014年にも同様の調査を行い,これらの結果を用いて比較・検討を行いました。

その結果,種類数,種類相,優占種などの全体的な項目からは,両年間での大きな変化は認められませんでした。一方,種ごとの分布標高を比較した結果,いくつかの種に分布域の変化が認められました。チュウブヒメマルクビゴミムシ,サドマルクビゴミムシの2種は分布標高の下限が300m以上上昇していましたが,分布下限が300m以上下降した種はいませんでした。さらに,サドマルクビゴミムシ,クロナガオサムシおよびムナビロナガゴミムシは分布標高の平均値の上昇が認められ,逆に下降した種はいませんでした。これらのことは,ゴミムシ類が徐々に生息域を上昇させていることを示しており,その原因として温暖化の影響が考えられました。

「白山における地表性ゴミムシ類の垂直分布の17年間(1997–2014年)の変化」(PDF:1,263KB)

「中宮展示館周辺で撮影された昆虫類の記録(2013–2023年)」

平松新一・安田雅美・南出  洋・富沢  章・中田勝之・八神徳彦

筆者らは中宮展示館周辺に出現した生物について写真により記録を残してきましたが,これらはこれまで公表されていませんでした。そこで,2013年から2023年にかけて撮影された写真記録から中宮展示館周辺で観察された昆虫類について出現種のリストを作成しました。

中宮展示館での撮影記録のうち,4,010枚の写真から14目109科に属する463種の昆虫類を判別しました。これらの記録のうち,環境省レッドリスト2020に記載されている種はアサマシジミなど 8 種,いしかわレッドデータブック2020に記載されている種はヒメオオクワガタなど13種でした。特にシロズヒラタハバチは環境省レッドデータリスト2020情報不足種,いしかわレッドデータブック2020絶滅危惧Ⅰ類で,これまで石川県では能登での記録が1例あるだけの全国的にも稀な種でした。

このように多くの種類が撮影され,希少な種が記録されたことは,中宮展示館を含む白山麓は豊かな自然環境を有し,そこに多様な生物が生息していることを示唆しています。

「中宮展示館周辺で撮影された昆虫類の記録(2013–2023年)」(PDF:1,402KB)

付表(エクセル:211KB)

「白山自然保護センター敷地内の緑地における脱皮殻採集法によるセミ類のフェノロジー調査」

小倉雅史・近藤崇・有本紀子・内藤恭子・川畠敦仁・長井斉

白山自然保護センター周辺におけるセミ類の発生状況を把握し,その発生動態に寄与する要因を検討するため,センター敷地内の緑地においてセミの脱皮殻採集調査を行いました。採集調査は7月上旬~9月上旬にかけて土曜・日曜・祝日を除く毎日実施し,緑地内の樹木ごとに脱皮殻を採集して種類別,雌雄別に個体数を記録しました。調査の結果,ニイニイゼミが64 個体,ヒグラシが56 個体,アブラゼミが269個体採集されました。種ごとに発生消長をみると,一部の種で発生のピークに顕著な雌雄差が生じていました。セミの発生と気象条件の間には明確な相関はみられませんでしたが,今後同様の調査を複数年にわたって実施してデータを蓄積し,年変動を分析することで気候変動がセミの発生に与える影響を解明できる可能性があります。また採集結果から,一部の樹木に脱皮殻が偏在していましたが,これにはセミ自体の樹種選好性が影響している可能性と,走光性が影響している可能性が考えられました。今後脱出孔の位置や夜間の光環境を調査項目に加えることで,脱皮殻の偏在が発生した要因を解明できる可能性があります。 

「白山自然保護センター敷地内の緑地における脱皮殻採集法によるセミ類のフェノロジー調査」(PDF:685KB)

「自動撮影カメラによる白山の亜高山帯・高山帯へのニホンジカの侵入状況調査2023年」

近藤  崇・小倉雅史・内藤恭子

ニホンジカ(Cervus nippon)は高山帯に侵入,定着した場合に短期間のうちに高山植物を衰退させるおそれがあることから,高山植物への影響が顕在化する前からの侵入状況の把握が重要となります。石川県では,ニホンジカは100年ほど前までに,捕獲等の影響により姿を消し,ニホンジカが長期間生息していない状態が続いていましたが,近年,県南部を中心に徐々に増加傾向がみられています。白山の高山帯においても,2016年と2019年に一回ずつ目撃されていることから,本研究では,高山帯へのニホンジカの侵入状況を把握することを目的に,6月末から11月初めにかけて自動撮影カメラによる調査を行いました。その結果,高山帯でニホンジカが3回撮影されました。亜高山帯では,オスの亜成獣を中心に撮影され,これらは新たな生息地を探して移動している分散個体と考えられ,白山の亜高山帯・高山帯はニホンジカの分布拡大の初期段階にあると考えられました。

「自動撮影カメラによる白山の亜高山帯・高山帯へのニホンジカの侵入状況調査2023年」(PDF:1,455KB)

「白山麓におけるニホンジカのライトセンサスの試み2023」

川畠敦仁・北原岳明・近藤  崇・小倉雅史・村中克弘・有本紀子・安田雅美

白山麓のニホンジカ生息状況を把握するためライトセンサス調査を行いました。2023年は過去4年間の結果と調査地の状況をもとに,11月中旬から下旬にかけて調査地を4つに絞り,標高40-830m,1ルートにつき6-17 kmで調査を行いました。ニホンジカがこれまでもよく見られた瀬波地区に関しては日を数日設け,出没状況を把握するために複数回の調査を行いました。原沢,五十谷,市ノ瀬の3つのルートでニホンジカを計4頭確認しました。五十谷では,2023年は確認できませんでした。今回,瀬波では,のべ4日間(11/22,27,12/4,6)の調査を実施しました。その内,最終日を除く3日間にわたり,複数頭が松尾山南斜面の山腹から瀬波川河原にかけて確認ができました。ここ数年で徐々に増加傾向にあることがわかりました。また,調査4日間の気温4℃~13℃の範囲では,出現数に影響はなかったと考えます。

「白山麓におけるニホンジカのライトセンサスの試み2023」(PDF:905KB)

「石川県のブナ科樹木3種の結実予測とツキノワグマの出没状況,2023」

小倉雅史・近藤崇・野上達也・奥名正啓

ツキノワグマ出没予測のため,主要な餌であるブナ雄花の開花状況,及びブナ,ミズナラ,コナラの3樹種について,雄花序落下量と着果度を調査し結実予測を行いました。調査はクマの多い加賀地方を中心に,ブナ雄花の開花状況は10 箇所,雄花序落下量と着果度は各樹種20~30 箇所程度で実施しました。その結果,ブナ雄花の開花状況調査では県内全体として並作と予測され,雄花序落下量調査ではブナとコナラが並作,ミズナラが豊作と予測されました。また,着果度調査ではブナ,ミズナラ,コナラのいずれも並作と予測されました。この結果を反映するように2023年のクマ目撃件数は280件となっており,2022年の244件と同程度で大量出没と呼ぶほどの規模ではありませんでした。しかし,9月~ 12 月の目撃件数は過去2年と比較して大幅に増加しており,3件5名の人身被害も発生しました。また2023年のブナ科3樹種の作柄傾向から,2024年はブナとミズナラの凶作傾向が重なる可能性が十分に考えられ,大量出没の可能性に警戒が必要です。

「石川県のブナ科樹木3種の結実予測とツキノワグマの出没状況,2023」(PDF:693KB)

「白山自然保護調査研究会」令和4年度委託研究成果要約

「白山自然保護調査研究会」令和4年度委託研究成果要約(PDF:844KB)

 

お問い合わせ

所属課:生活環境部白山自然保護センター 

石川県白山市木滑ヌ4

電話番号:076-255-5321

ファクス番号:076-255-5323

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